今回ご紹介するのは「首折り男のための協奏曲」(著:伊坂幸太郎)です。
-----内容-----
首折り男は首を折り、黒澤は物を盗み、小説家は物語を紡ぎ、あなたはこの本を貪り読む。
胸元えぐる豪速球から消える魔球まで、出し惜しみなく投じられた「ネタ」の数々!
「首折り男」に驚嘆し、「恋」に惑って「怪談」に震え「合コン」では泣き笑い。
黒澤を「悪意」が襲い、「クワガタ」は覗き見され、父は子のため「復讐者」になる。
技巧と趣向が奇跡的に融合した七つの物語を収める、贅沢すぎる連作集。
-----感想-----
七つの短編が少しずつリンクした物語でした。
首折り男の周辺
濡れ衣の話
僕の舟
人間らしく
月曜日から逃げろ
相談役の話
合コンの話
「首折り男の周辺」は、隣のアパートの人が犯人かも知れないという話。
若林順一と若林絵美の夫婦が過去の事件を扱うテレビ番組を見ていて、その犯人の人物像が隣のアパートの一階に住んでいる体の大きなお兄さんに似ていると若林絵美が言います。
犯人の犯行は、田端駅へ向かうバスの停留所で、ある男が背後から首の骨を折られ、殺されたというもの。
過去にも類似の事件が起きています。
この作品はそれぞれの短編の中で、視点が変わりながら物語が進んでいきます。
「首折り男の周辺」では「疑う夫婦」「間違われた男」「いじめられている少年」の3つの話があります。
それぞれの視点での話が交代で進んでいくのは伊坂さんらしい物語の構成だと思いました。
「間違われた男」の話では小笠原稔が大藪という男と間違われるところから物語が始まります。
小笠原稔を大藪と間違えた男は大藪に頼む予定だったことを小笠原稔に代役で頼んできて、気の小さい小笠原稔はそれを引き受けることになりました。
最初は大藪が誰のことなのか分かりませんでしたが、読んでいくと段々とその正体が分かってきます。
「いじめられている少年」は、中島翔という中学二年生の少年がクラスでいじめに遭っている話です。
このうち、「間違われた男」と「いじめられている少年」はそれぞれの話がそれなりにリンクしています。
そして3つの話を最後まで読んでいくと首折り男の人物像が見えてきます。
「濡れ衣の話」は丸岡直樹という男の話。
丸岡直樹は三年前、ある女に息子を車で撥ねられて亡くしていました。
そして丸岡直樹はこの女を殺害してしまいます。
息子を奪った女に偶然会い、はじめは平静であったにもかかわらず、話を交わしているうちに我を失い、気づいた時にはポケットに入っていた小刀で相手の首元を刺していました。
さらに刑事の田中さんという人に不自然な様子を見咎められ、犯罪がばれて逮捕かなと思ったのですが、事態は思わぬ方向に進んでいきました。
ここでも「首折り男」が登場します。
また、「首折り男の周辺」の話に出ていた「時空のねじれ」という言葉がまた出てきていました。
言葉がキーワードとなってそれぞれの短編ごとにつながっているのかなという予感がしました。
「僕の舟」は伊坂幸太郎さんの他の作品にも出てくる泥棒で探偵の黒澤が登場。
さらに「首折り男の周辺」に出ていた若林絵美も登場します。
若林絵美が探偵の黒澤に依頼をし、黒澤がそれに応えて調査をしてきたという物語です。
この話にも「時空のねじれ」という言葉が出てきました。
また、「濡れ衣の話」に出てきた「お呼びじゃないよ」という言葉がこの話にも出てきていました。
やはりいくつかの言葉がキーワードになって短編同士を繋いでいるんだなと思いました。
どうして銀座には柳の木が植えられているかの話は印象的でした。
銀座は埋立地のため水分が多すぎて、植物も立ち枯れたり根腐れを起こしたりして管理が難しいようです。
そこで、どうせならもともと水に強い柳を植えようということになったとのことです。
「人間らしく」も黒澤の話。
ある女が、夫によって酷い目に遭わされている妹が哀れに思え、その妹の夫が許せず、浮気の証拠写真を撮ってほしいと黒澤に依頼してきます。
妹の夫、義弟は嫁に親の介護をさせて、自分は浮気をして他の女といちゃついているという最低ぶりです。
この話では「お呼びでない」「神も仏もいやしない」という言葉が出てきました。
どちらも他の話で出てきている言葉で、この本ではこの展開が本当によくあるなと思いました。
また、「人間らしく」では黒澤の話と平行して中学三年生の少年が塾に通って、その塾に通う他の少年達からいじめられる話があるのですが、いじめの主犯の大河内という少年が突然消えるという事件が起こります。
まさに超常現象のようにパッと消えてしまって、そこでも「時空のねじれ」という言葉が出てきました。
「月曜日から逃げろ」も黒澤の話。
三連続で黒澤の話が続いて、小説の流れが首折り男の話から黒澤の話になっている印象を受けました。
黒澤は会話に入れる合いの手のテンポが良く、ちょっとひねくれてもいるため、会話が独特のリズムになります。
また、この話では黒澤の仕事についての描写があり、黒澤は誰かのために探偵仕事をしたり、自分のために空き巣仕事をしたりしています。
探偵兼泥棒です。
そしてこの話では黒澤の泥棒としての顔を知っている久喜山という男が登場して、黒澤が窮地に立たされます。
久喜山は地上波のテレビ放送の番組を作ることが多い東京の制作プロダクションの男です。
久喜山は黒澤が空き巣なのを知っていて、それをネタに黒澤を脅してきます。
何者の仕業なのかは分かりませんが、久喜山の家に突然絵画が飾られていて、その絵画を黒澤が空き巣の技法を駆使して持ち主の所蔵部屋に返しに行くことになります。
さらにその家に返しに行った際、黒澤は久喜山に嵌められ、ますます窮地に立たされます。
しかしやられっぱなしでは終わらず、最後に意外な展開が待っていました。
やはり黒澤はクールに独特のリズム感で、窮地もすんなりと脱していくのが似合っていると思います。
「相談役の話」は、「人間らしく」で黒澤と話していた、作家でクワガタを飼っている窪田という人が語り手です。
この作家の窪田という人も、「人間らしく」と同じく黒澤に浮気現場の撮影を依頼していました。
この話では山家清兵衛(やんべせいべい)という人の名前がよく出てきます。
山家清兵衛とは伊達政宗の家臣の人とのことです。
そしてこの話では心霊的なものも出てきてちょっと怖かったです。
「合コンの話」は、タイトルのとおりに合コンの話です。
文章の書き方を今まで読んだ伊坂さんの作品では見たことのないものに変えているのが特徴でした。
当初は井上真樹夫、尾花弘、臼田章二の男性三人と女性三人で合コンをする予定でした。
しかし当日になって合コンの幹事の井上真樹夫が急に来られなくなったため、井上真樹夫の仕事上の知り合いだという佐藤亘が代役に来ることになりました。
女性のほうは江川美鈴、加藤遥、木嶋法子の三人です。
この合コンでは殺人事件の話題が出ます。
その殺人事件とは、佐久間覚という俳優が首の骨を折られて殺されたというもの。
ここで再び「首折り男」の話へと戻ってきます。
ちなみにこの話でも「神も仏もいやしない」という言葉が登場します。
七つの短編全体をとおして、ゆるやかなつながりがありました。
また、「首折り男の周辺」ではマンションの一室で七人が死んでいる事件があったのですが、最後の一人がなぜ死んだのかが分かりませんでした。
他の短編で明らかになるのかなと思ったものの最後まで明らかになることはなく、謎のままでした。
同じく「人間らしく」という話でいじめの主犯の大河内という少年が突然消えた事件もなぜ消えたのかはよく分からないままでした。
全てが完全に明らかになるわけではなく、よく分からないまま残るものもあるのがこの作品の特徴のようです。
別々に進行してきた複数の物語があるところで混じりあい、うなりを上げて動き出すという伊坂さんの王道の展開ではなかったですが、「合コンの話」では文体をガラッと変えているなど、新たな作風への模索が感じられる一冊でした。
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-----内容-----
首折り男は首を折り、黒澤は物を盗み、小説家は物語を紡ぎ、あなたはこの本を貪り読む。
胸元えぐる豪速球から消える魔球まで、出し惜しみなく投じられた「ネタ」の数々!
「首折り男」に驚嘆し、「恋」に惑って「怪談」に震え「合コン」では泣き笑い。
黒澤を「悪意」が襲い、「クワガタ」は覗き見され、父は子のため「復讐者」になる。
技巧と趣向が奇跡的に融合した七つの物語を収める、贅沢すぎる連作集。
-----感想-----
七つの短編が少しずつリンクした物語でした。
首折り男の周辺
濡れ衣の話
僕の舟
人間らしく
月曜日から逃げろ
相談役の話
合コンの話
「首折り男の周辺」は、隣のアパートの人が犯人かも知れないという話。
若林順一と若林絵美の夫婦が過去の事件を扱うテレビ番組を見ていて、その犯人の人物像が隣のアパートの一階に住んでいる体の大きなお兄さんに似ていると若林絵美が言います。
犯人の犯行は、田端駅へ向かうバスの停留所で、ある男が背後から首の骨を折られ、殺されたというもの。
過去にも類似の事件が起きています。
この作品はそれぞれの短編の中で、視点が変わりながら物語が進んでいきます。
「首折り男の周辺」では「疑う夫婦」「間違われた男」「いじめられている少年」の3つの話があります。
それぞれの視点での話が交代で進んでいくのは伊坂さんらしい物語の構成だと思いました。
「間違われた男」の話では小笠原稔が大藪という男と間違われるところから物語が始まります。
小笠原稔を大藪と間違えた男は大藪に頼む予定だったことを小笠原稔に代役で頼んできて、気の小さい小笠原稔はそれを引き受けることになりました。
最初は大藪が誰のことなのか分かりませんでしたが、読んでいくと段々とその正体が分かってきます。
「いじめられている少年」は、中島翔という中学二年生の少年がクラスでいじめに遭っている話です。
このうち、「間違われた男」と「いじめられている少年」はそれぞれの話がそれなりにリンクしています。
そして3つの話を最後まで読んでいくと首折り男の人物像が見えてきます。
「濡れ衣の話」は丸岡直樹という男の話。
丸岡直樹は三年前、ある女に息子を車で撥ねられて亡くしていました。
そして丸岡直樹はこの女を殺害してしまいます。
息子を奪った女に偶然会い、はじめは平静であったにもかかわらず、話を交わしているうちに我を失い、気づいた時にはポケットに入っていた小刀で相手の首元を刺していました。
さらに刑事の田中さんという人に不自然な様子を見咎められ、犯罪がばれて逮捕かなと思ったのですが、事態は思わぬ方向に進んでいきました。
ここでも「首折り男」が登場します。
また、「首折り男の周辺」の話に出ていた「時空のねじれ」という言葉がまた出てきていました。
言葉がキーワードとなってそれぞれの短編ごとにつながっているのかなという予感がしました。
「僕の舟」は伊坂幸太郎さんの他の作品にも出てくる泥棒で探偵の黒澤が登場。
さらに「首折り男の周辺」に出ていた若林絵美も登場します。
若林絵美が探偵の黒澤に依頼をし、黒澤がそれに応えて調査をしてきたという物語です。
この話にも「時空のねじれ」という言葉が出てきました。
また、「濡れ衣の話」に出てきた「お呼びじゃないよ」という言葉がこの話にも出てきていました。
やはりいくつかの言葉がキーワードになって短編同士を繋いでいるんだなと思いました。
どうして銀座には柳の木が植えられているかの話は印象的でした。
銀座は埋立地のため水分が多すぎて、植物も立ち枯れたり根腐れを起こしたりして管理が難しいようです。
そこで、どうせならもともと水に強い柳を植えようということになったとのことです。
「人間らしく」も黒澤の話。
ある女が、夫によって酷い目に遭わされている妹が哀れに思え、その妹の夫が許せず、浮気の証拠写真を撮ってほしいと黒澤に依頼してきます。
妹の夫、義弟は嫁に親の介護をさせて、自分は浮気をして他の女といちゃついているという最低ぶりです。
この話では「お呼びでない」「神も仏もいやしない」という言葉が出てきました。
どちらも他の話で出てきている言葉で、この本ではこの展開が本当によくあるなと思いました。
また、「人間らしく」では黒澤の話と平行して中学三年生の少年が塾に通って、その塾に通う他の少年達からいじめられる話があるのですが、いじめの主犯の大河内という少年が突然消えるという事件が起こります。
まさに超常現象のようにパッと消えてしまって、そこでも「時空のねじれ」という言葉が出てきました。
「月曜日から逃げろ」も黒澤の話。
三連続で黒澤の話が続いて、小説の流れが首折り男の話から黒澤の話になっている印象を受けました。
黒澤は会話に入れる合いの手のテンポが良く、ちょっとひねくれてもいるため、会話が独特のリズムになります。
また、この話では黒澤の仕事についての描写があり、黒澤は誰かのために探偵仕事をしたり、自分のために空き巣仕事をしたりしています。
探偵兼泥棒です。
そしてこの話では黒澤の泥棒としての顔を知っている久喜山という男が登場して、黒澤が窮地に立たされます。
久喜山は地上波のテレビ放送の番組を作ることが多い東京の制作プロダクションの男です。
久喜山は黒澤が空き巣なのを知っていて、それをネタに黒澤を脅してきます。
何者の仕業なのかは分かりませんが、久喜山の家に突然絵画が飾られていて、その絵画を黒澤が空き巣の技法を駆使して持ち主の所蔵部屋に返しに行くことになります。
さらにその家に返しに行った際、黒澤は久喜山に嵌められ、ますます窮地に立たされます。
しかしやられっぱなしでは終わらず、最後に意外な展開が待っていました。
やはり黒澤はクールに独特のリズム感で、窮地もすんなりと脱していくのが似合っていると思います。
「相談役の話」は、「人間らしく」で黒澤と話していた、作家でクワガタを飼っている窪田という人が語り手です。
この作家の窪田という人も、「人間らしく」と同じく黒澤に浮気現場の撮影を依頼していました。
この話では山家清兵衛(やんべせいべい)という人の名前がよく出てきます。
山家清兵衛とは伊達政宗の家臣の人とのことです。
そしてこの話では心霊的なものも出てきてちょっと怖かったです。
「合コンの話」は、タイトルのとおりに合コンの話です。
文章の書き方を今まで読んだ伊坂さんの作品では見たことのないものに変えているのが特徴でした。
当初は井上真樹夫、尾花弘、臼田章二の男性三人と女性三人で合コンをする予定でした。
しかし当日になって合コンの幹事の井上真樹夫が急に来られなくなったため、井上真樹夫の仕事上の知り合いだという佐藤亘が代役に来ることになりました。
女性のほうは江川美鈴、加藤遥、木嶋法子の三人です。
この合コンでは殺人事件の話題が出ます。
その殺人事件とは、佐久間覚という俳優が首の骨を折られて殺されたというもの。
ここで再び「首折り男」の話へと戻ってきます。
ちなみにこの話でも「神も仏もいやしない」という言葉が登場します。
七つの短編全体をとおして、ゆるやかなつながりがありました。
また、「首折り男の周辺」ではマンションの一室で七人が死んでいる事件があったのですが、最後の一人がなぜ死んだのかが分かりませんでした。
他の短編で明らかになるのかなと思ったものの最後まで明らかになることはなく、謎のままでした。
同じく「人間らしく」という話でいじめの主犯の大河内という少年が突然消えた事件もなぜ消えたのかはよく分からないままでした。
全てが完全に明らかになるわけではなく、よく分からないまま残るものもあるのがこの作品の特徴のようです。
別々に進行してきた複数の物語があるところで混じりあい、うなりを上げて動き出すという伊坂さんの王道の展開ではなかったですが、「合コンの話」では文体をガラッと変えているなど、新たな作風への模索が感じられる一冊でした。
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