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「一年四組の窓から」あさのあつこ

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今回ご紹介するのは「一年四組の窓から」(著:あさのあつこ)です。

-----内容-----
中学一年の夏に引っ越すことになった井嶋杏里。
転校でなじめない中学の校舎で、使われなくなった教室『1‐4』に入った杏里は、市居一真と出会う。
杏里に出会った一真は、杏里に絵のモデルになってほしいと頼む。
そこから物語は始まったー。
杏里、一真、そして、かけがえのない友だちと家族。
悩みながらも成長する14歳を描いた、あさのあつこの青春傑作小説。

-----感想-----
物語は次の5章で構成されています。

杏里の窓
一真の窓
春の窓辺で
夏の日差しは
新しい年に

中学一年生の井嶋杏里は夏休み明けに芦藁第一中学校に転校してきました。
「どんなに陰口を叩かれても、嫌われても、意地悪されても、あたしはあたしの気持ちの通りに生きる」と胸の中でつぶやいていて、前の学校で何かあったのだと思いました。

杏里のクラスの担任はキリッとして明朗闊達な立ち居振る舞いが印象的な舟木綾子先生。
杏里の前の学校では見ないタイプの先生だったようです。
隣の席の里舘美穂、杏里の斜め後ろの席の前畑久邦などが話しかけてきますが、杏里は戸惑いぎみであまり親しくは応じませんでした。
杏里は有名私立大学の付属中学の生徒でした。
都市から地方の芦藁という街に引っ越してきたとあったので、たぶん東京の中学校にいたのではと思います。
杏里は前の中学校では友達同士での神経を使いながらのみんなでわいわいという環境に馴染めませんでした。
何か誘われて断ったりすると途端に陰口を叩かれるような関係は嫌だったようです。
中学生や高校生の頃は特に友達グループに神経を使うので、陰口を叩かれないか心配しながら付き合うような関係は疲れるだろうと思います。

杏里は前の中学校で木谷修也という人に恋をしていました。
しかし友達グループの野々村桃花も木谷修也に恋をしていて、杏里にとって悲劇的な展開が待っていました。
失意の杏里は芦藁に住むおばあちゃんの具合が悪いこともあり、おばあちゃんを口実にして芦藁第一中学校に転校することにしました。
そして「杏里の窓」ではもうひとつ、市居一真との出逢いが大きな出来事としてありました。
市居一真は木谷修也と似たところがあり杏里は興味を惹かれます。


「一真の窓」になると語り手が市居一真に変わります。
一真と久邦は小さい頃からの幼なじみで、久邦がボケをかまして一真が付き合ってあげていたりしました。
一真は美術部、久邦は陸上部です。

一真は空き教室である1年4組の窓からの絵を描こうとしますが、教室に入るとそこに杏里がいました。
一真は杏里を一目見て「この人を描きたい」と思います。

絵を描くことが好きで光るものを見せる一真ですが、なぜか一真の父の一成は一真が美術部に入り絵を描くことを極端に嫌っていました。
これがなぜなのか気になるところでした。
父自身が画家になることを志して挫折した過去でもあるのかなと思いました。


「春の窓辺で」では冒頭に「桜も散った4月半ば」とあり、杏里達は中学二年生になっていました。
杏里と一真は市の絵画の展覧会に行きました。
その道中、道を歩きながら一真と話していて、杏里は自身がおしゃべりが苦手なのを痛感していました。

おしゃべりは苦手だ。
相手に話題を合わせてしゃべるのも、愛想笑いするのも、てきぱきと自分の思った事を説明するのも苦手だ。
すごく不器用なんだと思う。

この時の杏里と一真の会話を見る限り、杏里は上手く喋っているように見えましたが、本人はこう思っていました。
このお喋りの件がそうであるように、周りから見ると気にならなくても、本人にとっては凄く気になっていることはあると思います。

杏里は一真に木谷修也の面影を見ていますが、しかし一真は純粋に杏里のことが気になる存在でした。
そこに差があるなと思いました。
この差が後々どう影響するのか、付き合うことになっていくのかそうはならないのか、気になるところでした。
また、芦藁第一中学校でも杏里はかつての木谷修也の時のように、市居一真に想いを寄せる人物と向き合うことになります。

「杏里、人はね、幾つになっても変われるものなんだよ。良くも悪くも、凛々しくも卑しくも、変わるものさ。変われるものなんだよ。」
杏里の祖母のこの言葉はかなりの名言だと思いました。
人間年を重ねるほど自分自身が強固に形作られるのでそれを変えるのは難しいと言われますが、その気になれば良いほうに変えられるのではと思いました。

そうか、友だちも家族も同じなんだ。
自然のままに。
自然のまま互いが心地よくいられる。
そんな関係が一番、すてきなんだ。
杏里のこの言葉も良かったです。
学生時代の友達との会話では沈黙を恐れて次々とあれこれ話すことがありますが、これはやはり気疲れしてしまうと思います。
沈黙になる時間があったとしてもお互い気にせずに過ごせるような関係が一番自然で良いと思います。

中学生らしくとても瑞々しい雰囲気の作品でした。
この瑞々しさが青春小説の良いところだと思います。
続編の文庫版が今月出るようなのでそちらも読んでみたいと思います


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