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「ちょうちんそで」江國香織

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今回ご紹介するのは「ちょうちんそで」(著:江國香織)です。

-----内容-----
いい匂い。
あの街の夕方の匂い―。
些細なきっかけで、記憶は鮮明に甦る。
雛子は「架空の妹」と昔話に興じ、そんな記憶で日常を満たしている。
それ以外のすべて―たとえば詮索好きの隣人、たとえば息子たち、たとえば「現実の妹」―が心に入り込み、そして心を損なうことを慎重に避けながら。
雛子の謎と人々の秘密が重なるとき、浮かぶものとは。
心震わす〈記憶と愛〉の物語。

-----感想-----
江國香織さんの小説は8月に「思いわずらうことなく愉しく生きよ」で初めて読みました。
今回の「ちょうちんそで」は本屋で文庫本を見かけ、その帯に解説が綿矢りささんとあったことから興味を持ちました。

「隣室の男がやってきたとき、雛子は架空の妹とお茶をのみながら、六番街の思い出について語り合っているところだった。」
これが物語の語り出しでした。
架空の妹とお茶を飲みながら語り合うというのはまともな状態とは思えませんし、異様さを感じました。
雛子は今年で54歳になります。
妹の名前は飴子といい、現実での飴子は今年で50歳になりますが、雛子が部屋で話す架空の飴子は30歳くらいだったり17歳くらいだったりします。
もう20年くらいは飴子に会っていないため、現在の飴子の姿は想像できないようです。

丹野という隣室の男がよく雛子の部屋にやってきます。
丹野は毎回弁当などの差し入れを持ってきて、なぜか雛子のこれまでのことを詮索します。
「雛子さんは昔、仙台にお住いだったんですよね」
「それで、そのあと横浜に移られたんでしたよね」
丹野は明らかに雛子の過去に興味を持っていました。
架空の妹は
「まただね」
「この人いっつも詮索するね」
と顔をしかめ、丹野のことが露骨に嫌いなようです。
私も詮索ばかりする人は嫌いなので、そんな人が寄ってきたとしても大事なことは話さないと思います。
ただ雛子は丹野のことが嫌いではないようで、聞かれたことに色々答えています。

物語の語り手が代わり、正直という男が登場します。
正直は妻の絵里子と生後6ヶ月の娘・萌音、そして大学生の弟・誠の彼女である亜美とともに海に来ていました。
誠は夏休みの間海の家で働いています。
この人達の物語と雛子の物語がどう関わっていくのか興味深かったです。

次は丹野圭子が語り手になりました。
雛子のところによく来る丹野の妻で、夫の龍次がたびたび雛子のところに行くことに呆れていました。

そしてなつきという小学校三年生の子が語り手の物語もありました。
舞台は異国で、どの国かは書かれていませんでした。
世界一住みやすい街で海の近くとあり、最初はヨーロッパのどこかをイメージしていたのですが、真赤な小鳥「カーディナル」を調べてみたら南北アメリカに生息しているとあったので、アメリカの海岸沿いのどこかかも知れません。
なつきは小学校のほかに日本人学校にも通い英語の補習を受けています。
この日本人学校の小島先生という女の人のことをなつきは凄く気に入っていました。
なつきの物語は正直の物語以上に唐突感があり、この物語が雛子の物語に関わってくるのだろうかと疑問に思いました。

雛子は二年くらい前、アルコール中毒状態で泥酔して昏倒し、救急車で病院に運ばれたことがあります。
退院した頃には雛子はもう以前の雛子ではなくなっていたようなのですが、その頃のことに意識が行くと、架空の妹が「ねえさんねえさんねえさん」と呼び掛けてきます。
「思いだすのやめれば」
「そんなことをすれば悲しくなるだけなんだから」
これは飴子の言っていることがよく分かりました。
この小説を読んだことにより先日の「記憶との付き合い」を書いています。

雛子には二人の息子が居るのですが、下の息子が雛子の部屋にやってくることになります。
下の息子は大学生で法律を学んでいます。
この息子が語り手の物語もあり、母親のことが語られていました。
母親には男がいて、夫と息子二人を捨てて家を出て行ってしまっていました。
そして二年半前、病院に担ぎ込まれて変わり果てた姿の母親と再会しています。
下の息子の物語では作品タイトルの「ちょうちんそで」の由来も明らかになりました。
ブラウスの袖がふくらんだものを母親が「ちょうちんそで」と呼んでいたとのことです。
ちなみに雛子は息子に「小人を見たことがある?」と言っていました。
突拍子もない質問なのですが、なつきの話でも小人が登場していました。
やはり物語が絡んでくるのだろうなと思いました。

そして物語が進んでいくと、それぞれの物語のつながりが浮かび上がってきます。
雛子が家族を捨て駆け落ちした男は既に死んでしまっているのですが、ある人物が関与しているような気がしました。
また、なつきの物語に出てくる小島先生の正体も明らかになっていきました。
物語の最後、これまでとは全く違う人物が雛子の部屋を訪ねてくることになり、雛子も架空の妹との世界から一歩踏み出すことになるような気がしました。
真に心を取り戻すためのきっかけになると良いなと思います。


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