今回ご紹介するのは「田舎の紳士服店のモデルの妻」(著:宮下奈都)です。
-----内容-----
東京から夫の故郷に移り住むことになった梨々子。
田舎行きに戸惑い、夫とすれ違い、恋に胸を騒がせ、変わってゆく子供たちの成長に驚き―
三十歳から四十歳、「何者でもない」等身大の女性の十年間を二年刻みの定点観測のように丁寧に描き出す。
じんわりと胸にしみてゆく、いとおしい「普通の私」の物語。
-----感想-----
主人公は竜胆梨々子(りんどうりりこ)。
夫の達郎がうつ病になり、会社を辞めて夫の実家のある福井県で療養することになりました。
ずっと東京で暮らしていくものだと思っていたのに突然福井に行くことになって戸惑う梨々子。
梨々子は田舎に行くことを「島流し」「左遷」などと表現していて、否定的に捉えているようでした。
その田舎で過ごす10年間が、この物語です
物語は梨々子の一人称で、梨々子が心境を吐露する形で書かれています。
会話よりも心境吐露のほうが多いくらいで、これは明らかに梨々子の物語なのだと思いました。
すごく色々なことを考えていて、悩んでいるなということが見て取れました。
一つ一つの出来事について、それは私のせいなのか?どうしたらいいのか?という感じであれこれ思い悩んでいました。
P24に出てきた「運の月」という表現は初めて聞きました
梨々子によると、「運には月のように満ち欠けがあって、たまたま今は欠けている、あるいは新月かもしれないけれど、そのうちにまたまるく満たされると、つまり運命とは大雑把に言えばそういうものではないか」と考えているとのことです。
福井行きを「運の尽き」ではなく「運の月」にしてくれたのはちょっと良かったなと思います。
さすがに「運の尽き」では夫の達郎がいたたまれないですからね。。。
妻としての夫のうつ病に対する不安以上に、母親としての息子二人への不安、心配が尽きないようでした。
例えばP67、「潤が感情を出さないことに悩み、歩人(あると)が泣きすぎるのはどこかおかしいのではと不安になり、その責任が自分にあるのではないかと考えてしまう」とありました。
梨々子には潤(兄)、歩人(弟)の三歳差の息子がいるのですが、「この子がこんななのは私のせいなのではないか」と思い悩む場面が何度もありました。
母親とはこんなに悩むものなのかと思います。
舞台が福井県なので福井弁で話す人が多く、何だか漫画「ちはやふる」の綿谷新が思い浮かびました。
独特の温かみがあって良いですね、福井弁^^
梨々子の心境吐露にはたまに笑える表現がありました。
P183の「自慢ではないが、人にやさしくするより、こちらがかまわれたいほうなのだ」など、自身の性格について結構赤裸々に語っていました。
P92の「こんな田舎の小学校の運動場で誰かに色気を感じるなどというのは、気高い竜胆梨々子にあるまじきことなのだ」などは結構ウケました(笑)
時折プライドの高さを垣間見せていて、福井に来てから数年、なかなか現状に納得できないものもあったのだろうと思います。
ただ終盤は色々なものを受け入れ、人間として妻として母親として、一回りも二回りも大きくなっていました。
完璧な人などいないのだし、梨々子のように色々なことに悩む人のほうが圧倒的に多いと思います。
そこを乗り越え自分なりの答えを出し成長した梨々子であれば、よい未来を引き寄せられるに違いないと思いました
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