Quantcast
Channel: 読書日和
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1166

「こころの処方箋」河合隼雄

$
0
0


今回ご紹介するのは「こころの処方箋」(著:河合隼雄)です。

-----内容-----
人のこころの影を知り、自分の心の謎と向き合う。
たましいに語りかけるエッセイ55篇。
”私が生きた”と言える人生を創造するために。

-----感想-----
一つのエッセイにつき4ページで構成され、心理的なことを分かりやすい言葉で書いていました。

P11「決め付けについて」
「「わかった」と思って決めつけてしまうほうが、よほど楽なのである。この子の問題は母親が原因だとか、札付きの非行少年だから更正不可能だ、などと決めてしまうと、自分の責任が軽くなってしまって、誰かを非難するだけで、ものごとが片づいたような錯覚を起こしてしまう。こんなことのために「心理学」が使われてばかり居ると、まったくたまったものではない。」
最後の「こんなことのために「心理学」が使われてばかり居ると、まったくたまったものではない。」が特に印象的でした。
河合隼雄さんは心理学を「この子は⚪⚪だから△△に違いない」というような決め付けのために使ってほしくないと考えていたようで、これはとても大事なことだと思います。

P12「ふたつよいことさてないものよ」
「「ふたつよいことさてないものよ」というのは、ひとつよいことがあると、ひとつ悪いことがあるとも考えられる、ということだ。抜擢されたときは同僚の妬みを買うだろう。宝くじに当るとたかりにくるのが居るはずだ。世の中なかなかうまくできていて、よいことずくめにならないように仕組まれている。」とありました。
この「ふたつよいことさてないものよ」は河合隼雄さんが好きな言葉、法則とのことです。
たしかに世の中なかなかよいことずくめにはならないなと思います。
良いこともあれば悪いこともあり、長い目で見ると両者が拮抗しているのかも知れないです。

P14「この法則の素晴らしいのは、「さてないものよ」と言って、「ふたつよいことは絶対にない」などとは言っていないところである。」
これは読んでいてたしかにと思いました。
時にはふたつよいことが揃うこともあります。
反対にふたつ悪いことが揃うこともあります。
ふたつ悪いことが揃う時は「今は流れが悪いな。この流れを変えよう」と意識し、ふたつよいことが揃う時は「今は良い流れだな。浮き足立たず、この流れを生かしていこう」と意識するようにしたいです。
長い人生の中で全体で見ると良いことも悪いことも半々くらいなのかも知れませんが、その中で少しでも良いことの比率を増やせたら嬉しいです。

P17「100%正しい忠告はまず役に立たない」
安全な場所から正しいことを言っているだけの愚かさが書かれていました。
己を賭けることもなく、責任を取る気もなく、100%正しいことを言うだけで、人の役に立とうとするのは虫がよすぎる。そんな忠告によって人間が良くなるのだったら、その100%正しい忠告を、まず自分自身に適用してみるとよい。「もっと働きなさい」とか、「酒をやめよう」などと自分に言ってみても、それほど効果があるものではないことは、すぐわかるだろう。
100%正しいことを言うだけなら誰でもできるのですが、それが役立つかどうかは別の問題です。
「その正しいことを実現するための具体的方策は?(頑張れ、根性でなど以外で)」となると、なかなか答えられない人が多いような気がします。

P29「言いはじめたのなら話合いを続けよう」
アメリカ人の夫と日本人の妻との間に生じた離婚事件で、夫の友人で妻の嫌いなタイプの人が居たとのことです。
ある日とうとう辛抱できなくなって、あの友人は大嫌いだと夫に告げます。
夫は反対せずにそれを聞いていたのですが、しばらく経って夫がまたその友人を家に連れ帰ってきます。
妻は激怒し、「この前あれほど、はっきりと嫌いだと言っておいたのに、また連れ帰ってくるというのは、自分の気持ちを無視している。これは、夫が自分を愛していないからだ」と主張します。
これに対し夫は次のように言います。
「妻が自分の友人を嫌いなのはよくわかった。しかし、妻はただあんな人は大嫌いと言うだけで、話を打ち切ってしまい、それではどうするのか話し合おうとしない。妻が彼を嫌いでも、自分は彼を友人として付き合いたいと思っている。ただ自分の気持ちを言うだけで妥協点を見出すための努力を払おうとしないのは、妻の方こそ愛情がないのではないか」
この夫の発言の中で「それではどうするのか話し合おうとしない」が印象的でした。
妻のほうは普段は「黙って耐える」という昔の日本人の美徳的な対応をしていて、夫の友人に対しては我慢仕切れなくなったため「大嫌い」と言いました。
しかしただ大嫌いと言うだけで「それではどうするのか」がないことを夫は指摘しています。
これを見て、安易に「これだから日本流は駄目なんだ。欧米流に変えるべきだ」とはしないのが河合隼雄さんの良いところだと思います。
黙っているのは辛いことだ。だからといって、発言すれば楽になるなどというものではない。自分の意見を言うだけでなく、相手の意見も聞き、話合いを続けるのは、黙っているのと同じくらい苦しさに耐える力を必要とするだろう。どちらをとるにしろ、人生というものは、それほど楽なものではないのである。

P42「河合隼雄さんの言葉の特徴」
「こんな話を聞くと、すぐに、だから人間は⚪⚪だと言う人がいる。」というような表現がよく出てきます。
この言い方は河合隼雄さんの特徴で、常に「決め付けずに一旦間合いを取る」ことを意識していたようです。

P53「100点以外はダメなときがある」
これは人生においてはたまにそんな場面があるとのことです。
夫が会社で残業し、疲れ果てて家に帰ると妻と子が浮かぬ顔をしていて、話を聞くと中学生の子どもが仲間に誘われて窃盗したのが露見して母親が学校に呼び出されたとのことです。
こんな時、「疲れているし、うるさいことだ。何とか早くすませて」などと考えるともう駄目とのことです。
たしかにこの場面でこのように考えてはダメで、100点の対応が必要な時だと思います。
仮に面倒そうな対応をすれば妻には失望され、子どもには大した親父ではないと思われるのではと思います。
また、「100点は時々で良い」ともあり、これもそのとおりだと思います。
常に100点を狙っていたのでは疲れてしまいます。

P59「マジメに休みを取れ」
日本人も昔よりは大分休みを取るようになったものの、「マジメに休みを取れ」などということになって、せっかくの休日を「有意義」に過ごそうなどと考えすぎ、休日は増えたがマジメさは変わらない、などということになりそうとありました。
マジメに休みを取れという考えは本末転倒です。
休みは気楽に休むためのもので、真面目に気を張って休むためのものではないです。

P69「心のなかの勝負は51対49のことが多い」
どうすべきか悩んでいるものごとをどちらかに決める場合は51対49で勝負が決まることが多いとあり、たしかにそんな気がしました。
悩んだ末、「こっちだ!」と決め、気持ちも完全にそちらに向かったと思っても、実際には無意識の部分ではどちらが良いかはほぼ五分五分に思っているとのことです。

P77「説教の効果はその長さと反比例する」
説教は長くなるほど効果もなくなっていくとあり、これはそのとおりだと思います。
説教が長引く原因として、説教で語られる話が何といっても「よい」話には違いないので、話をしている本人が自己陶酔するので長くなるとありました。
また、平素の自分の行為の方は棚上げしておいて、「よいこと」を話していると、いかにも自分が素晴らしい人間であるかのような錯覚も起こってくるので、なかなか止められないとありました。

P78「説教がなくならない理由」
「説教というものが、説教する人の精神衛生上、大いに役立つものであるからであろう。」とありました。
さらに「上司は上司なりに欲求不満がたまってくると、そのはけ口として部下に説教をする、というのが実状ではなかろうか。」とありました。
私はこんな時、これを素直に認められる人が、説教ばかりで嫌われているとしても、上司の器量を持ってはいるのだろうと思います。
そしてこれを素直に認められずに「俺はお前のためを思って説教しているんだ」と自身の正当性を主張するような人のことは、あまり信用する気にならないです。

P83「男女は協力し合えても理解し合うことは難しい」
「男女が互いに他を理解するということは、ほとんど不可能に近く、また、時にそれは命がけの仕事と言っていいほどのことであることを、よくよく自覚する必要がある。」とありました。
これは「理解するのはほとんど不可能だというのを分かった上で、なるべく理解するように努める」という気持ちが大事なのだと思います。

P87「人間理解は命がけの仕事である」
「うっかり他人のことを真に理解しようとし出すと、自分の人生観が根っこのあたりでぐらついてくる。これはやはり「命がけ」と表現していいことではなかろうか。実際に、自分の根っこをぐらつかせずに、他人を理解しようとするのなど、甘すぎるのである。」とありました。
これも「男女は協力し合えても理解し合うことは難しい」と同じく、理解するのは困難だというのを分かった上で、できる範囲で理解していくように努めるのが大事なのだと思います。
なので「私はこの人という人間を理解している」などと気軽に言うことはできないと思います。
その場合の理解しているはあくまで「私の尺度の中で理解している」となり、実際には理解できていない部分があるはずです。

P94「自立は依存によって裏づけられている」
「自立ということは、依存を排除することではなく、必要な依存を受け入れ、自分がどれほど依存しているかを自覚し、感謝していることではなかろうか。依存を排して自立を急ぐ人は、自立ではなく孤立になってしまう。」とありました。
自立しようという意識が強すぎ、必要な依存まで無理に断ち切るのは逆効果ということです。
とにかく誰かや何かに頼る(依存)のは悪だと決め付け何でも一人でやるべきとして暴走すれば、自立とは程遠い結果になると思います。

P118「アドラーの言葉」
河合隼雄さんはユング心理学の日本における第一人者なのですが、この本でもアドラーの言葉が出てきました。
アルフレッド・アドラーという人は、ノイローゼの人が相談に来ると、「あなたはもしノイローゼが治ったら何をしたいと思いますか」とよく尋ねたとのことです。
その人が「ノイローゼさえ治ったら、自分の職業にもっともっと打ち込みたい」などと答えると、アドラーは「あなたは仕事に打ち込むのを避けるためにノイローゼになっていませんか」と言ったとのことです。
ノイローゼさえなかったら、あれもするこれもすると言っている人は、本当はそれを避けるためにノイローゼになって、それを嘆くことによって安定を保っているとのことです。
この「仕事に打ち込むのを避けるために、ノイローゼという症状になっている」という考え方は「目的論」と呼ばれ、アドラー心理学の根幹となっています。
アドラーの考え方は河合隼雄さんの他の本でフロイトほどではないですが引き合いに出されることがあり、自分の学派(ユング心理学)以外の心理学についても知っているという視野の広さは良いなと思います。

P133「その人の真実の欠点を指摘するとき、それは致命傷になる」
「言ってはならぬ真実を口にしたために、人間関係が壊れてしまった経験をお持ちの方は、多く居られることと思う。」とありました。
これは「お前の真実はこうだ!」と指摘するのが良いとは限らないということです。
黙っていたほうが良い場合もあります。
また「このことを知らず、ともかく真実を言うのはいいことだと単純に確信している人が居る。」とあり、そういう人がトラブルメーカーなのだと思います。

P176「家族関係の仕事は大事業である」
「社会的には大いに認められることをしているのに、息子一人をうまくできないことに悩む人達」のことが書かれていました。
これについて「職業や社会的なことに関する仕事は大変だが、家族のことなどは簡単にできるはずだという思い込みがあるのでは」とあり、なるほどと思いました。
そして家族関係の仕事は大事業だとありました。
これは以前読んだ「プロカウンセラーの聞く技術」(著:東山紘久)という本でも「プロのカウンセラーであっても、家族の話を聞く時は膨大な力を使う」とあり、やはり家族に関することは大変なのだと思います。

P21「知ることの落とし穴」
「「知る」ことは大切だが、ここにも落とし穴があることをつけ加えておかねばならない。それは人間のことに関して「知る」ことが知的な理解だけに終わっているときは、それはかえって危険な状態を引き起こすことになるからである。このような危険は、心理学の本をよく読んでいる「勉強好き」の人に生じがちなことである。」
これは私も心理学の本をよく読むので気を付けたいと思います。
本で学んだことをそのまま杓子定規的に「このケースは⚪⚪だから△△に違いない」などと決め付けるのは危険ということです。
人間は機械ではなく心を持つ生き物なのですから、本の理論どおりにはいかないことも多々あるということを常々意識しておくことが大事だと思います。


4ページで構成されたエッセイが55篇あり、どのエッセイも興味深く読めました。
文章も読みやすく書かれていて、心理的なことが書いてありながらも気楽に読めるのが良いです。
そして気楽に読める内容でいて文章には心に響く独特な魅力があり、題名が「こころの処方箋」となっているように自分自身の心にとって良い本だと思いました。


※図書レビュー館(レビュー記事の作家ごとの一覧)を見る方はこちらをどうぞ。

※図書ランキングはこちらをどうぞ。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1166

Trending Articles